超伝導コイルによる磁気エネルギー貯蔵 (SMES)
SMESとは?
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近年、風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギーを用いた発電が注目されています。これらの発電方式は自然には優しいのですが、自然現象に依存するため発電量の制御が出来ず、時間的に変動します。一方、電力を安定に供給するためには電力消費量と発電量が等しくなるように調整する必要があります。
そこで、私たちは電気エネルギーを高速で貯蔵・放出でき、電力量を瞬時に調整できる超伝導磁気エネルギー貯蔵 (SMES: Superconducting Magnetic Energy Storage) 装置の研究を行なっています。
電力自由化が迫り、電力会社は既存の発電所の運転効率向上を要求されていますが、電力貯蔵設備を持つことで、予備の発電所を減らすことも可能です。
電磁力平衡コイル
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SMESの実現を阻んでいる要因の一つはコストにあります。
超伝導現象を利用するSMESは、冷却効率を上げるために、ある一定以上の大きさを必要とします。さらに、大量のエネルギーを蓄積するためには、超伝導コイルに大電流を流す必要がありますが、その際発生する電磁力を支持しなくてはなりません。通常のソレノイド型、あるいはトロイダル型コイルでは、通常の方法では電磁力を支持できず、地中に穴を堀り、岩盤でコイルを支えなくてはなりません。これでは、工事も大変ですし、冷却も難しくなります。
そこで、私たちは右図にある原理に基づく、「電磁力平衡コイル」を考案しました。内側に向かって電磁力の働くトロイダル磁場コイルと、外向きに働くソレノイドコイルを組み合わせ、ヘリカル型のコイルとしました。このコイルのピッチ数を調整することで、相反する向きの電磁力を相殺することが出来ます。これが電磁力平衡コイル (FBC: Force-Balanced Coil) です。
Virial定理による超伝導磁気エネルギー貯蔵用コイルの最適化
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上で説明した電磁力平衡コイルにより、ある方向の電磁力を大幅に低減させることが出来るようになりました。しかし、実際に低減させるべきものは電磁力ではなく、それを支えるコイル、支持材に生じる応力です。
そこで、私たちは応力と、コイルに蓄えられる磁気エネルギーの関係式である「Virial定理」を用いて、応力最小となる条件(Virial限界条件)を理論的に導き、その条件を満足するコイルを「Virial限界コイル」(VLC: Virial-Limit Coil)と名付けました。
さらに、この理論を実証すべく、任意のピッチを模擬出来る超伝導コイルを製作し、実験を行ないました。その結果、私たちの提唱するVLCでは、コイル巻枠に発生する応力が平準化し、最大応力が劇的に減少することがわかりました。
現在、有限要素法を用いた解析を進めるとともに、強磁場を発生できるコイルの製作に取り掛かっています。
H. Tsutsui.
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